今宵、フィッツジェラルド劇場で

2007年に 「今宵、フィッツジェラルド劇場で」と言う映画が日本で上映された。”A Prairie home companion”という、米国での人気ラジオショーに題材を取った映画で、私も長年聴いていた。私は映画は興味はなく全くと言って良い程見ない。しかし、この映画だけは機会があれば見に行きたいと思っていたが、時期を逸して現在に至る。 この間思い出して検索して見たら、レンタル落ちのDVDがあったので買って見ている。 Robert Altmanと言う監督の作品で、遺作となったものだという。それはともかくとして、この映画の内容が、実際のラジオ番組を聞いていた身として全く違和感のない、ストーリーに身を任せられるものだった。アメリカの映画とかアニメにありそうなテンポの良さと、しかししっとりとした画面と進行の雰囲気に魅了される。キャストに実際のラジオ番組の出演者も入っており、例えば既に亡くなってしまったSound effects manのTom Keithも実際にSound effectsで出演しているし、声でしか聴いたことのなかった Meryl Streep の演技も見ることができた。私はこの人は歌手だと思っていたが、大女優だったんだ。

この映画が日本で公開されてから12年経ち、世界は大分変わった。この番組の創始者で脚本家で、ホストである Garrison Keillor が2016年に若いマンドリン奏者に番組を引き継いで引退した。その後番組のテイストが変わったので、私はこの番組を聴かなくなったが、後で知ったが翌年セクハラのスキャンダルで、放映した放送会社とも関係を断絶されたとのことだ。映画の中で、出演者の中の4人姉妹の一人が低血糖で気分がおかしくなり、たった59セントのドーナツ代を払い忘れて逮捕された下りが出て来る。 Keillor 自身のスキャンダルでも双方に言い分はあるのだろうが、 Keillor 自身は相手を励ますためにたまたま手が触れた、と言うことを言っているようだ。この場面が符合して、何となく複雑な気分になる。

放送局と劇場はテキサスの実業家に売却され、拠点を失った主要メンバが数年後にまた劇場前の小さなレストランで再起の相談をしている所に「天使」が現れ、メンバが微妙な表情をしているのが、この映画の後味をミステリアスなものにしている。この物語の軸はいくつも絡み合っていて、いちいち挙げてもきりがないが、一つ挙げるとすると”死”があると思う。本物のラジオ番組では出てこない「天使」が、「神の導きによって天に召しに」地上に降り立ち、出演者の一人の老人「チャック」を天国に送り出す。その死を発見した愛人に対して、「旅立っただけ」「老人の死は悲劇じゃない」「彼の欠点を許し、愛と優しさに感謝するのよ」と言わせている。監督はこの年2006年11月に亡くなっている。アルトマン監督は自分の死期を悟っていたのではないか、と言うような忖度もしたくなってくる。このDVDには、おまけとして監督とGuy Noir役の Kevin Kline の対談によるオーディオ解説が入っているが、最後のシーンで天使がGarrison、Guyを含む4人の元に現れた時、 Kline はGuyを迎えに来たのだと語り、監督はそうだ、そしてこれはGuyの夢の中の物語だった、Guyは夢から覚めてまた仕事に出かけるのだと述べているが、私はこの見方には与しない。そうだとすると予定調和的な結末となり、物語の奥行きが狭くなる。監督がそのように意図していたとは思わない。あの場面で4人に、しっかり天使が見えていたかどうか、私はGarrisonの視線が定まっていないことが気になる。 Garrisonが最初に気配に気が付いてそれが何かを見極めようとしている。召されに来た本人には、天使の姿が見えないのではないか。何故そう思うかと言うと、天使が前述の「チャック」が舞台袖で出番を待っている時に彼の肩に手を置いた時、本人はそれに気づいていない。ただし、その後、少し体調が悪そうな仕草をして舞台を務めて自分の控室に戻り、蝋燭を点け、レコードを回してベッドに横たわるという場面を見て、老人は何とはなく自分の死期を悟ったのではないかと思うからだ。私にはGarrisonを迎えに来たように思える。 従って、Garrison、そしてチャックが監督自分自身なのだと。

この映画の基調は、中西部の人達のメンタリティーにあると思う。これを伺わせるセリフが耳に残っている(済みません、見栄を張りました、字幕が目に残っている、です)ので、転載する

中西部の者達は災いは無視すれば消えると考えている
(Guy Noir)

我々は暗い大地の暗い人間なのです
事態は悪くなると信じ、悪くなるのを待ってる (*)
人生は苦闘だと教えられて育ちました
幸せになったら、不幸になるまで耐えるのです
中西部の人間は自分の終わりを悠々として受け入れる傾向がある
(以上Garrison)

アメリカ西海岸風の考え方と何と違うことか。因みに、(*)のフレーズに通ずるものがMurphyの法則にもある。

Things go right so they can go wrong.

最後に、私は最近写真教室に通って、構図と言うものを学び始めたところなので、映像の作り方のうまさに感心する。例えば、楽屋の中で、鏡を多用して、登場人物を一つのフレームでいくつものアングルから見せる手法、天使の背景にあった天井の照明器具を天使の輪のように重ねて見せて、天使が去ると同時に電球が切れるような演出。一つのシーンで前景と背景で別々の事象が同時進行している様等。一度見ただけでは気づかないことが多い。

P.S.
10年前の投稿で、「 Tim Russell, Sue Scott, Tom Keith, Fred Newmanの役が入っていないのは寂しい。 」と書いた。このDVDを見て 、Fred Newman以外は出演しているのを見て安心した。

2019/07/20
んねぞう

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