山里の春 – May 2017

山形県南部と新潟県北部を結ぶ鉄道はJR米坂線である。それと並行して、国道113号線が走っている。特に山間部の区間は蛇行する荒川と戯れるように走る、渓谷美豊かな区間で、春から秋にかけてはその季節折々の美しさを見せ、そして冬は名にし負う豪雪地帯として、雪の脅威と美しさ、そして鉄道を維持する人間の闘いをまざまざと見せつける。渓谷を走る鉄道としては、旅番組で良くわたらせ渓谷鐡道や大井川鐡道が紹介されるが、この米坂線も渓谷美では負けていないと思う。もう少し脚光を浴びても良いのではないだろうか。

5月連休のある日、その米坂線にぶらりと乗って、以前から気になっていた、小国駅の先にある駅で下車して見た。ぶらりと、とは書いたが、米坂線の運行本数は非常に少ないので、実は事前に時刻を確かめて行きました。確かめたつもりが、実はその列車は目的地手前で終点になることが乗る直前に分かってしまい、予定変更を余儀なくされた。そんなこんなで、その目的とする駅に着いたのがちょうど昼。何か食べるところがあれば、と思っていたが、コンビニはおろか、駅に自動販売機もなく、覚悟を決めてカメラを取り出して歩き出した。駅は無人駅で、国道に面している。暫く車が脇を猛スピードで駆け抜ける国道の歩道を歩く。歩いているのは、掛け値なしに私一人。抜き去って行く車の中からは奇異の視線が浴びせられていると言う意識がある。暫く国道を新潟県側に歩くと分岐があり、国道の下をくぐって集落への道を辿る。

すると、そこは別天地であった。水、山、緑、青空、太陽がそれぞれの蛇口を全開したような景色にぶち当たる。

集落への道を辿り、集落を通り過ぎ、1時間程行ったり来たり、好きなだけ歩いて写真を撮る。途中、人には誰にも出会わなかった。出会った唯一の哺乳類は一軒の家の玄関先に繋がれた犬。吠えられた。

集落の集会所がある近くで。ここらがメインストリート。ただし突き当たりは川。

対岸より。笹藪と遠くの峰の残雪が、冬の名残を窺わせる。

廃屋にも春が来ている。背後は何かの採掘跡か。国道に戻り、川の写真を撮るために今度はガードレールのない側を歩く。車一台が渡れる幅の橋。トラスが路面に落とす影が、もう後戻りしない季節を物語っている。

駅で乗り降りしたのは私一人、出会ったのは犬一匹と、国道から逸れて、橋からの景色を撮りに車から降りてきたカメラマン二人、以上。

2017/05/02

んねぞう