鉄瓶のある駅 – Apr. 2017

5月連休のある晴れた日、山形鉄道フラワー長井線の羽前成田駅を訪ねた。この路線は旧国鉄の長井線で、現在は第三セクターによって運営されている。沿線にはこの駅の他に羽前成田のレトロな駅舎が残っており、両駅とも登録有形文化財に指定されている。駅の事務室だった部屋を利用して、写真等の小さな展覧会も良く開催されているようだ。今回行った時も、世界を旅行して鉄道写真を撮った写真家二人の展覧会が開催中だったが、訪れた時はまだ開場前だったので観覧できなかった。

駅舎に差す陽の光を板敷のベンチの座面が柔らかに返す。座面が白飛びしないよう露出を調整しながら撮影する。

とても懐かしい出札口。私が中学生位の時までは、このような鉄道の出札窓口で硬券の乗車券を買ったものだ。上に掲示してある料金表は旧国鉄時代のもののようだ。あの当時は田舎育ちの私にとって、電車ではなく「汽車に乗る」と言う行為は非日常的なものであり、緊張と興奮のないまぜになった気持になった。

待合室に炉と、立派な自在鈎に鉄瓶がかかっている。冬は実際に火が入るのだろうか。帰宅して写真をじっと見ていたら、鉄瓶が風でかすかに揺れている感じがした。

ホームの外れの桜。ソメイヨシノは如何に春が遅い南東北とは言え流石に散ってしまっている。

目を駅の外にやると、まだ雪を被った峰。ここからの雪解け水が間もなく代掻きが始まる水田を潤す。

第三セクターになって経営に一生懸命で、このようなキャラクターまで出て来ている。この会社だけではなく、津軽鉄道等他社もそれぞれのキャラクターを売り出しているらしい。このようなキャラクターがでかでかと描かれた車体が出て行くのを駅の改札の木製のガラス戸越しに見ると何ともいえない感じがする。

少し調べて見た所によると、このキャラクターの抱いている兎は、入社した女性社員の発案で、当初は白兎(しろうさぎ)駅の駅長として飼い始めたものだが、世話の関係から宮内駅で飼うこととなったが、宮内駅の近く人ある熊野大社の本殿裏に、兎が三羽隠し彫りされていてそれを見つけた人は幸運に恵まれるという後付の縁があるとのこと。また、このキャラクター少女は学生時代は吹奏楽部に所属していたという設定だが、これは2000年代初頭に公開された映画「スイングガールズ」の撮影にこの鉄道会社が協力したことからと考えられる。

この素朴な駅達はボランティアの人達により維持されていると聞く。できるだけ長く存続することを祈りたい。

2017/04/30~05/02

んねぞう