ジョイスの「小さな雲」の舞台を歩く-Nov.2025

アイルランドの生んだ文学者の一人にジェイムズ・ジョイス(James Joyce, 1882-1941)がいる。その代表的な作品の一つに「ダブリナーズ」(或いは「ダブリン市民」と言った方が通りが良いかも知れない)がある。これはいくつかの短編で構成されており、その一つ「小さな雲」と言う作品の舞台となった場所を拾い歩いて見た

主人公のリトル・チャンドラーの職場であったキングズ・インズ

ヘンリエッタ通り。当初はイギリスから来た地主貴族の館が経ち並ぶ通りだったが、当時は貧民窟となっていた。今は落ち着いた住宅街となっているが、心なしか建物が両側からのしかかってくるような威圧感を感じる

リトル・チャンドラーは成功した友人と会うという高揚感から、周囲にいる垢まみれの子供たち、干からびかけた老人等の群れを疎ましく見ながら歩を進める

ケイプル通り。リトル・チャンドラーの魂はこの通りの野暮臭さにむかつきを感じた

グラタン橋からのリフィ川の眺め。主人公のリトル・チャンドラーはこの橋からの町並みを貧相な発育不全の家並、乞食の群れのようだと言っている。今はそのような感じはしない。キングス・インズの職場を出てからの彼は、成功した友人に会うと言う高揚感と、自分の才能が日の目を浴びるチャンスの望みに急に自分以外の物がつまらないものに見えるようになっている

ダブリンの夜のバー。リトル・チャンドラーは高級バー「コーレス」で、8年前にダブリンを出奔し、ロンドンで成功した友人イグネイシャス・ガラハーと会う

ダブリンの夜の裏通り。リトル・チャンドラーはガラハーとの会話に頭が混乱し、妻に頼まれた買い物も忘れたまま家に帰る。普段から、自分の文学的才能を恃み、控えめに暮らして来た日常、そこに入り込んできた、友人の成功のひそみに倣い、自分の成功のチャンスの希望が一時熱を帯びたが、結局は元のつまらない日常に戻って行く、その心の動きを、ジョイスは見事に描写していると思った

この舞台を実際に歩いて追っかけをして、その舞台の空気を実際に吸うことのできる幸せに感謝である

ノース・アール ストリートに立っているジェームズ・ジョイス像

2025/11
んねぞう

P.S.
「小さな雲」を読んで、この舞台を歩いた詳細はフォトエッセーとして、文芸同人誌「澪」27号(2026年3月発売予定)に掲載予定である