風の強い街 – May 2014

5月連休のある日、津軽線の突端の街を歩いた。ここは、「階段国道」 でも有名な場所、竜飛の最寄駅である。太宰修の「津軽」に、竜飛の描写で下記のようなくだりがある。

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もう少しだ。私たちは腰を曲げて烈風に抗し、小走りに走るやうにして竜飛に向かって突進した。路がいよいよ狭くなつたと思ってゐるうちに、不意に、鶏小舎に頭を突込んだ。一瞬、私は何が何やら、わけがわからなかつた。

「竜飛だ。」とN君が、変つた調子で言つた。

「ここが?」落ちついて見廻すと、鶏小舎と感じたのが、すなはち竜飛の部落なのである。凶暴の風雨に対して、小さい家々が、ひしとひとかたまりになつて互ひに庇護し合つて立つてゐるのである。ここは、本州の極地である。この部落を過ぎて路はない。あとは海にころげ落ちるばかりだ。路が全く絶えてゐるのである。

ここは、本州の袋小路だ。読者も銘肌せよ。諸君が北に向つて歩いてゐる時、その路をどこまでも、さかのぼり、さかのぼり行けば、必ずこの外ヶ浜街道に到り、路がいよいよ狭くなり、さらにさかのぼれば、すぽりとこの鶏小舎に似た不思議な世界に落ち込み、そこに於いて諸君の路は全く尽きるのである。

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何と謂ふミステリアスな描写であらうか。路と謂ふものはどこまでも続いてゐるのが当たり前で、その路が突然鶏小舎に頭を突込んだやうな形で切れる。このやうな路の終わり方、どう謂ふいうことであらうか。強いて類例を挙げるならば、彼のヨハン・セバスティアン・バッハ氏の作曲 による「フーゲの技法」の末尾のやうなものであらうか。この場合は、作曲者本人の死去に伴ふ、謂ふならば絶筆作品であるが、ヴィオラの最終フレーズの放つ音響が漆黒の闇、或ひは宇宙に吸い込まれてゆく様、二つながら肌に粟を生じせしめんとする業である。「津軽」は昭和19年に刊行された作品であるから、現代では様子が変つてしまつてゐるかも知れぬが、一度訪ねてみたいと思わぬ訳にはゆかないではないか。

済みません、文体が引用文に引っ張られてしまいました。

さらに済みません、今回は時間の都合で竜飛まで行けませんでした。でも、いつかは行きたいと願ってゐるので、ここに書き留めておくことにしました。

さて、その突端の駅、三厩に降り立って1枚目の写真。当日は天候が悪く、雨交じりの強い風で、西から吹いてくる風が、近くの山の木々を抜けて来るざわざわ、轟轟という音が印象的だった。駅の構内に立つ一本杉も枝が風に煽られながらも抗っている。

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駅を出て歩き出すと、突風にあおられて、差していた折り畳み傘の骨が折れてしまった。幸い雨は止みかけていたので傘を仕舞い、人のいない道をとぼとぼ、きょろきょろしながら歩く。空家の前に佇む猫。毛並や目つきで野良猫と察しがつく。この地域の気候の厳しさを感じる。

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海側に向かって歩いて行くと、松前街道に出る。この街道は、太宰の頃は「外ヶ浜街道」と言われたらしい。雨で水溜まりが残っているアスファルトの街道を時折車が抜いて行く。ぴんと張られた電線に、風に対抗する意志を感じる。

雨に濡れそぼれた道路脇の草、霧か風で巻き上げられた潮で霞む海、ところどころで鳴き交わすウミネコの鳴き声、時折耳元を掠め、ボウと言う音を残して行く風。

街道をとぼとぼ歩くが、傍目から見て、天気も良くないのにご大層にも一眼レフカメラをぶら下げて歩いているのは奇異に見られているだろうなとは思う。今の時代、このような場所は車での移動が普通で、それでも歩いているのは何か問題を抱えている人かも知れないと思われても仕方がない。しかし、地元の人達には申し訳ないがこのような天気、この様な裏寂れた感じが私は好きなので仕方がない。

季節と天気が違えばまた違った表情を見せてくれると思う。その時はまた私も別のセンサーが作動して、別の写真を撮るだろう。ただ、人の多いのは御免だ。

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街道を南に歩くと、小さな漁港があり、土捨て場のようなところにウミネコが2羽。以前、テレビで落語家が「三鷹ではカラスがこんなになって飛んでます」と言って風に煽られて斜めに飛んでいる仕草をしているのを見たことがあるが、ここでも多分同じ感じなんだろうな、と思う。

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さらに街道と津軽線の間を行き来しながら南に進む。廃屋が目につく。風が強いため、痛みも早いのだろう。

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隣駅まで歩き、やってきた列車に乗り、三厩まで戻って、今回のんねブラは終わり。

(津軽線の「極地」は、鶏小舎ではなく、車庫だった)

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太宰の「津軽」から受けた印象と、実際の三厩での体験から今回のタイトルは満場一致(脳内)で「風の強い街」に決定。

今日も、私の好物、うらぶれた寂しい風景に身を置くことができたことに感謝。

写真は、当日の天候と自分の心象に合わせた結果、すべて白黒となった。

んねぞう

 

 

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